犬の宮と猫の宮は何を意味するか
米沢市の北にあるのどかな町である山形県高畠町には、ワンセットのお宮、犬の宮と猫の宮ってのがあります。
犬の宮は、「チンは高安犬としての純血を保っていた最後の犬だった」で始まる『高安犬物語』(動物作家:戸川幸夫氏)の直木賞受賞作の舞台になりましたね。
全国でも珍しい犬を祀った社で、安産と無病息災にご利益があるそうですよ。
愛犬の健康祈願や供養に訪れる人が多いそうです。
猫の宮は、犬の宮に対座する猫の宮は大蛇から主人を救ったという猫を祀った社で、養蚕と村の安泰の神様として信仰されていますね。
愛猫はじめ、ペットの健康祈願や供養に訪れる人が多いのですって。
おそらく犬の宮と猫の宮のある高畠は“たかはた”と“はた”がつくし養蚕の土地だったことからして 、秦氏の関係がある土地です。
犬の宮と猫の宮の近くには、安久津八幡神社があります。
貞観2年(860年)慈覚大師が阿弥陀堂建立という事ですけど。
康平年間(1058~1065年)に源義家が安倍貞任追討の際に陣をひき、鎌倉の鶴ヶ岡八幡宮の分霊を祀ったとされる古社だそうですよ。
置賜地方、唯一の「三重塔」があるそうですよ。
犬の宮猫の宮
犬の宮
由来:和銅年間の708年~714年のことです。
都から役人が来て村人を集め「この里は昔から年貢も納めず田畑を作っていたが、今年から年貢のかわりに毎年、春と秋には子供を差し出すように」といい、村では大変悲しみ困っていました。
ある年、文殊堂帰りの座頭が道に迷い、一夜の宿を頼んだところが、今年の人年貢を差し出す家でした。
座頭は、ある夜現れた役人が、ご馳走を食べながら「甲斐の国の三毛犬、四毛犬にこのことを知らせるな」と何回も念を押して帰るのを耳にしました。
それで座頭は甲斐の国に使いをやり、三毛犬と四毛犬を借りてこさせ、いろいろ知恵を授け村を去りました。
村人は早速役人を酒席に招き、酔いが回ったところに、2匹の犬を放ったところ大乱闘になりました。
あたりが静まり返った頃おそるおそる座敷を覗いてみると、血の海の中に子牛のような大狸が2匹と多数の荒狸が折り重なって死んでいました。
村人は、三毛犬、四毛犬も息絶え絶えに横たわっていたのを必死に手当をしました。
でも介護の甲斐なく、犬は死んでしまいました。
この村を救った犬を村の鎮守とせよとのお告げにより、まつったのが現在の犬の宮といわれています。
猫の宮
由来:延歴年間の781年~805年のことです。
高安村に代々庄屋で信心深い庄右衛門とおみね夫婦が住んでいましたけど、2人には子供がありませんでした。
猫を心からか可愛がっていたのに、なぜか次々と病死してしまうのでした。
今度こそ丈夫な猫が授かるように祈っていたある夜のことです。
同じ夢枕に観音菩薩が現れ「猫を授けるから大事に育てよ。」とのお告げがあり、翌朝庭に三毛猫が現れました。
夫婦は大いに喜び、玉と名付けられそれはそれは子供のように大切に育てられました。
玉も夫婦にますますなつき、そして村中のネズミをとるのでたいそう可愛がられていました。
玉は不思議なことに、どこへでも、おみねの行くところに付いていきました。
寝起きはもちろんの事、特に便所へいくと、天井をにらみ今にも飛び掛からんばかりに耳を横にしてうなっています。
おみねは気持ちが悪く思い、夫にそのことを話してみました。
夫が妻の姿をして便所に行くとやはり、玉は同じ素振りをします。
庄右衛門はいよいよあやしく思い、隠し持っていた刀で猫の首を振り落とした瞬間、首は宙を飛び屋根裏にひそんでいた大蛇にかみついました。
この大蛇は、70数年前から、いつかいつの日か仕返しをしようとねらっていました。
けど、三毛犬、四毛犬に殺された古狸の怨念の血をなめた大蛇が、玉が守っているため手出しできなかったのです。
この事を知った夫婦は大いにくやみ村人にこの事を伝え、村の安泰を守ってくれた猫のなきがらを手厚く葬り、堂を建て春秋2回の供養を行ったということです。
犬の宮と猫の宮と、スサノオが活躍するヤマタノオロチはなんか妙に似ています。
ヤマタノオロチでは娘を差し出すところが、犬の宮では子どもを役人に差し出す。
スサノオがやってくるのに、文殊堂帰りの座頭が道に迷ってやってくる。
スサノオが退治するのに、甲斐の国の三毛犬、四毛犬が退治する。
ヤマタノオロチが酒に酔わされるのに、役人が酒に酔わされる。
ヤマタノオロチが退治されるのに、子牛のような大狸が2匹と多数の荒狸が退治される。
このすれ違いを埋め合わせるかのように猫の宮では、70数年前に三毛犬、四毛犬に殺された古狸の怨念の血をなめた大蛇が、三毛猫の玉に退治される。
ヤマタノオロチの首が刎ねられる代わりに、猫の宮では三毛猫玉の首が刎ねられる。
ヤマタノオロチは草薙の剣に、そこからしばしば製鉄に関係付けられるけど、犬の宮と猫の宮、特に猫の宮は養蚕に、結びつきます。
多くの食い違いがあっても、この奇妙な一致はいったい何を意味するのでしょう。
そういえば、スサノオは逆剥きの馬を機屋に投げこみ驚いた機織女が陰所(ほと)をついて死ぬので、養蚕で繋がってしまうのです。
草薙の剣もあるいは蛇神の化身とすれば、蛇が蛇を生んだ、あるいは、蛇の死と復活、にも繋がります。
おしらさまでは、刎ねられた馬の首が娘を伴って昇天したところから連想して、馬頭観音と養蚕の関係を探ってみたら、養蚕の行われている所では、かなりの確率で馬頭観音が祀られていたのです。
ただ、養蚕の神としてかならずしも祀られてるとは限らないです。
でも多くの地域では養蚕の神とされています。
猫の宮では観音様が夢に現れ、かと思うと、所によっては馬鳴(めみょう)菩薩なる神が養蚕の神として登場します。
さらには、近い地域に道祖神を祀る習慣がある場合が多いのです。
おしらさまには頭を布から出した貫頭型とがあり、貫頭型の頭部には男神と女神があるところは道租神に似ています。
道租神は今でこそ、高齢の男女が多いけれど、かつてはもっと若く、もっと艶っぽかったのです。
そうなるとおしらさまと道租神は余計似て来ます。
その馬頭観音や道租神の代りに、高畠では犬の宮と猫の宮があります。
わたしにゃ、猫が陰、犬が陽の陰陽道に見えちゃうです。
三毛犬、四毛犬なんて足したら七で、まるで七福神か創世記の天地創造の日数です。
三毛猫の三は、造化三神とか原初三神を連想しちゃうです。
不思議なお宮です。
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コメント
いろいろ符合する点がありそうです。犬の宮と猫の宮のワンセットは、スフィンクスみたいな感じがします。ネコ科のライオンだったり、狛犬だったり。
投稿: コテツ | 2008年5月24日 (土) 07時25分
わたしはむしろ、生命の樹を連想しましたが。。。。
罪びとを罰する点では、メルカバーだったりして?
投稿: cova | 2008年5月24日 (土) 08時09分