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ヒポケパロス

Hypocephalus(ヒポケパロス、あるいは、ヒュポケファルス)を、ご存知でしょうか。
古代エジプトで、ミイラの傍から発見されていた遺物です。

ヒポケパロスは、円盤状に作られていました。
材料には、リネンやパピルスや金や青銅や木または粘土が用いられていました。

ヒポケパロスは、ギリシャ語で下を表すhypó(ヒポ)と、ギリシャ語由来のラテン語の頭を表すcephalus(ケパロス)をつなげた言葉で、「頭の下」を意味します。

作られていたのはプトレマイオス王朝の頃です。
プトレマイオス王朝は、紀元前305年から紀元前30年まで、ギリシャ人によってほぼ300年の間がエジプトを統治された時代です。
ヒポケパロスはエリートのミイラの頭部の下に、おかれていたのです。

けれど、ヒポケパロスはプトレマイオス王朝のエリートなら誰でも使用できたわけではなく、主に上エジプトで特定の聖職者の家族の埋葬に制限されたようです。

エジプト神話において、人間は肉体、Ba(バー)、Ka(カー)の3つの要素から成り立っているとされていたのです。
バーは魂(こん)つまり精神をつかさどる陽の気にあたり、カーは魄(はく)つまり肉体をつかさどる陰の霊気にあたります。

つまり肉体とは、知性や感性の働きに関係するバーと、体に備わっている一種の活力ともいえるカーの、入れ物とされていたのです。
言い換えると、カーの働きによって、バーは肉体に留まっているとされていたのです。
霊が肉に結合するという思想は、どこか、聖書で言うアダムやイブの創造に似ていますね。
あるいは、旧約で姿が見えない霊的存在であったヤハウエが、新約ではマリアの受胎によって肉体を得てイエスとなった話を連想できます。

バーは人が死ぬと肉体から離れ冥界へ行くが、肉体がそのままであればカーの仲立ちによって肉体と結びつき再び此岸に戻って来られると考えられていました。
このあたりは、肉体の保存を必ずしも必要としない聖書やコーランとは違いますけど。

ヒポケパロスは、おそらく、このバーとカーの信仰にかかわっていたのです。

ヒポケパロスには、古代エジプトの文字であるヒエログリフで文章が書かれていました。
文章の目的は、死者の頭部の下で生気を与える象徴的な炎や輝きを発することでした。
ヒポケパロスの発する象徴的な炎や輝きで、ミイラの頭部や体が魔法のように包まれるようになることを、古代エジプト人たちは願っていたのです。
この死者の肉体の霊気とは、肉体の活力を担っているカーのことです。
ヒポケパロスに書かれたヒエログリフは、カーを生き生きとした状態に保つことを目的としていたのです。

ヒエログリフの働きで発せられる、ヒポケパロスの象徴的な炎や輝きとは、太陽の炎や輝きでありましょう。
もちろんその力の元には、太陽神の存在が想定されたでしょう。

ヒポケパロスの円形は太陽を表し、猫神ラーまたは隼神ホルスの目を象徴しています。
ラーはもちろん、ホルスも太陽に関係の深い神なのです。

エジプト人にとって、日の出とは、日没になぞらえられた死からの復活を鮮明に印象つける象徴でした。
昇ってくる太陽との一体化は、あの世での復活を願うエジプト人にとって憧れだったことでしょう。

ヒエログリフは、死者の神聖であることを表す目的もありました。
古代エジプト人は、ヒポケパロスにヒエログリフによって、あの世での復活についての考えを表現しようとしていたのです。
ヒポケパロスに書かれたヒエログリフは、死者の死後が神に見守られることを願う点では、ある種の死者の書といえるのです。

この話をしながら思ったのが、枕の下に縁起の良い絵を敷いて寝る風習です。

死者と生者、中東と極東、立場と国を超えて、似た思想があるのは、魂とバー、魄とカーの類似とともに、興味深いですね。

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