弁才天と山?
以前、どこかの山で山頂に弁才天の祠を見たことがありました。
仏教のなんとか菩薩が日本の神さんと神仏習合して、弁天さんになったと違いますか。
弁財天とも表記される「べんざいてん」は、「べざいてん」とも読まれ、弁天と略されることもあります
「才」と「財」を引っ掛けて、縁起担ぎで弁財天とも表されたとか。
仏教では、妙音菩薩(みょうおんぼさつ)と同一視されることがありますね。
妙音菩薩は多くの仏に仕え、智慧とあらゆる三昧を得ているとされます。
弁才天のもとは、ヒンドゥー教の女神であるサラスヴァティー(Sarasvatī)です。
「サラスヴァティー」は、聖なる河の名を表わすサンスクリット語で、古代インドの河神でした。
河の流れる音からの連想から音楽神とされ、福徳神、学芸神など幅広い性格を持つとされました。
音繋がりで、妙音菩薩と混同されたのですか。
学芸神と言う、共通点もありますね。
サラスヴァティーは仏教や神道に取り込まれ、弁才天と呼ばれるようになりました。
山といってもハイキング程度しかしない私の行く山なので、たいした高さではないですけど。
川は多くの場合、山の湧き水を源流とするから、あって当然といえば当然とも見えます。
それで、大して気にも留めていなかったのです。
ところが吉野裕子著『山の神』を見ていたら、日本古代からの山の神“蛇(巳)”と、陰陽道由来の“猪(亥)”があり、十二支では“蛇(巳)”は全陽、“猪(亥)”は全陰とあったのです。
陽とくに全陽は男性、陰とくに全陰は女性、を象徴に持ちます。
それで、本書では“猪(亥)”が女性に当たるので、女房とくに古女房は「山の神」と呼ばれると解釈してたのです。
となると、弁才天は“蛇(巳)”=全陽=天=円と、“猪(亥)”=全陰=地=方の合一となり、、“蛇(巳)”と、“猪(亥)”両者の習合として祭られても不思議ではないですけど。
蛇を伴う女神とくれば、真っ先に思い出すのは弁天様ですね。
それで、弁才天も山と係わり合いがあるかもと検索してみました。
すると、弁財天山や弁才天山、弁天山は九州から、関東、東北に至るまであるではないですか。
しかも、人工的に整備したものまであったのです。
人工的といっても、各地にある浅間神社のような人工的に手を加えられた山ではないですけど。
例えば、和歌山県和歌山市の元々は和歌山城内の領域であった公園にある弁財天山の麓には、神社と半自然・半人工の池があり、弁財天山からはその池に小さな滝が流れています。
弁天の名のつく山には、面白い言い伝えの山もあります。
熊本県の西合志町にある146mの弁天山です。
その一。聖徳太子のせい?
聖徳太子が肥後の国に5ヶ所の池を作らせたうちの一ヶ所と伝えられる大池の土が、 一夜にして丸く盛り上がり、山になって出来たというものです。
なお、今は池はなく、地名にその名を残しているだけだそうです。
その二。大男説
昔、非常に力もちの大男がいて、ある日、この男が、ふごに土をたくさん入れ、肩に担いで運んでいたそうです。
ところが、足を滑らせて転んでしまい、その弾みに、担いでいた天秤棒は折れてしまって運んでいた土はひっくり返ってしまったのです。
その時に出来た土の山が弁天山で、大男が転んだ時に、お尻を突いて大きな穴が出来た場所は、今では大池と言われているそうです。
聖徳太子といえば、仏教を熱心に広めた印象がある一方、大工の神としてもあがめられています。
太子が、法隆寺を建立したことや日本建築で昔から使われてきた建築用万能計算機ともいえる曲尺(かねじゃく)を発明したという伝承があります。
この言い伝えのために中世以降、太子は大工の神様として信仰を集めたと伝えられるのです。
大工仕事の前には土木作業があるし、実際、太子は土木と建築の技術を広めたわけで、大工の神としての聖徳太子は同時に土木の神の顔も想像できるのです。
つまり、聖徳太子説と、大男説は、実は矛盾しないという可能性もありえるのです。
弁才天の山の由来は、面白いですね。
大男説なんかは特に。
しりもちついてできた穴なんて…。
ええ、面白いこと思うものですね。
そこで、ふと思ったのです。
弁天様はアジアから渡ってきた女神で、日本の神としては新参です。
弁天は、音楽・弁舌・学芸の神にして蛇を従える女神です。
となれば、蛇を連れた智恵と智識に富んだ女と言うことでもありますね。
古代日本にいた神に授かった子として蛇をそばに置いた蛇神の巫女は、同じように蛇と一緒の弁天信仰に乗っ取られたのでしょうか。
泉鏡花の「高野聖」に出てくる美女は、蛇の化身だったと思います。
僧侶が旅を続ける山の中で体験した、幻想的なお話ですが…。
高野聖にでてくる蛇の化身である美女は、道成寺縁起の「安珍清姫」などがヒントではないのでしょうか。
蛇と絡む女の伝承の陰には、古代日本の蛇巫女がいると思われます。
蛇巫子の像は、いくつかの遺跡から出土しています。
蛇は、やはり山の神の象徴なのかなと。
三角の山は、しばしば神奈備山とされます。
この三角は、蛇ではないかと言う説は吉野裕子などが出していますね。
二手で琵琶を持つ女神像が一般化したのは、鎌倉時代です。
日本では、七福神の一人として民衆の信仰を集めてきたのはご存知のとおりです。
二臂で琵琶を奏する姿は、密教で用いる両界曼荼羅のうちの胎蔵界曼荼羅に見えるそうですね。
胎蔵界曼荼羅中の二臂像は、女神ではなく、菩薩の姿だそうです。
それでは、妙音菩薩と同一視された姿では。
たぶんそうでしょ。
あまり知られていないけど、弁天には八本の手で各種の武具を持つ像もあります。
八臂像は、『金光明最勝王経』「大弁才天女品(ほん)」によるものでしょ。
八本の手には、弓、矢、矛、鉄輪、羂索(けんさく、つまり投げ縄)などを持つと説かれますね。
弁天が日本に定着した裏には、蛇巫女たちの信仰との習合もあった可能性は考えられます。
そうでないと、もともと川の神である弁天が小さな築山のようなものを含めて、山に祀られるのは説明がつきにくいです。
八臂の弁天って、八臂の毘沙門と関係ありますかねえ。
さあ、どうなのでしょ。
確かに、似てますけど。
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コメント
弁才天、山を検索していてここにたどりつきました。実は、弁在天の縁日は「巳」と「亥」があります。理由はわかりません。
私もひとつの可能性として弁才天と山を考えています。「山弁才天」という言葉があるくらいなので。「十六味」も弁才天と関係があるようなのですが何のことか、わからず困っています。
投稿: 渡嶋蝦夷 | 2010年9月29日 (水) 10時25分
弁在天の縁日は「巳」と「亥」がありますか。
弁才天、弁財天までは知ってましたが弁在天は、恥ずかしながら存じませんでした。
まさに、山の神としての弁天ですね。
「十六味」と弁才天ですか。
十六は、八臂の二倍。
天の全方位の八方と地の全方位の八方とを、合わせて十六とみたいですね。
弁才天を“蛇(巳)”=全陽=天=円と、“猪(亥)”=全陰=地=方の合一と展開した議論の裏が、あなたの情報でとれました。
ありがとうございます。
投稿: cova | 2010年9月29日 (水) 19時05分