チェンバロの起源を考える。
チェンバロは、ドイツ語でCembalo、イタリア語でClavicembaloと表記されます。
英語ではハープシコード(Harpsichord)、フランス語ではクラヴサン(Clavecin)といいます
チェンバロ、大好きです。
鍵盤を用いて、弦をプレクトラム(plectrum)で弾いて発音する楽器です。
プレクトラムとは爪の意味で、鳥の羽軸などからできていますね。
弦を下から上にひっかいて音を出すのでしょ。
今ではプレクトラム(plectrum)は、英語でギターのピックの事を指す言葉になっていますね。
チェンバロは、撥弦楽器(はつげんがっき)、または鍵盤楽器の一種に分類されますね。
狭義には、大型の「チェンバロ」を指すでしょ。
広義には、より小型のヴァージナル(virginal)、ミュゼラー(muselar、 あるいは、muselaar)、スピネット(英語でspinet、フランス語でepinette、イタリア語でspinetta、スペイン語でespinetta)もチェンバロ族に含められるのでしょ。
チェンバロは、15世紀から18世紀のヨーロッパにおいて重要な鍵盤楽器でした。
サロンからコンサート会場へと、演奏の場が広い空間になっていったので大きな音を求められたのでしょ。
繊細な音が好まれながらも、ピアノに圧倒されて衰退。
でも、楽曲の本来の姿を求める人々によって20世紀に復興され、今日では広範に演奏されていますね。
チェンバロの起源は、明らかでありません。
気になるのは、ものすごく弦の多い琴が中国から東ヨーロッパにかけてみられるのですよ。
ツィター属打弦楽器といわれる、楽器の仲間ですね。
ツィターの英語表記はZither、フランス語表記はCithare、イタリア語表記はCentra da Travolaです。
ツィターは、チターとも発音され、琴の仲間をさします。
ツィターは、主にドイツ南部、オーストリア、スイスなどでよく使用される弦楽器でしょ。
私の見たのは、打弦楽器ですよ。
ツィター属打弦楽器系の楽器として、西南アジアのサントゥール、ハンガリーのツィンバロム、中国の洋金(楊琴)、ドイツのハックブレットがあります。
ポーランド語だと、ツィンバーウィだったような気がします。
ハンガリーと近いですからね。
ついでにいうと、ツィター属打弦楽器は英語圏ではダルシマー(dulcimer)とよばれます。
「甘美な旋律」を意味する、ラテン語「dulcis melos」に由来します。
余りの弦の多さに、ピアノの弦を覗き込んだ、みたいな気分になりました。
この琴をもとに、考案したとか。
その可能性はありますね。
ツィンバロム(Cimbalom)はハンガリーを中心に東欧諸国に広まっているけど、ドイツ語のチェンバロ(Cembalo)と発音と綴りが似ているのは気になります。
そういえば、スロバキアのあたりでもあるようですね。
ツィンバロムが日本打弦楽器協会推奨表記らしいけど、ツィンバロン、チンバロン、などと表記されたりもします。
チンバロンと読むと、チェンバロとそっくりというか、まぎらわしいですね。
ツィンバロムは、ハンガリーを中心とする中欧・東欧地域で見られる大型の打弦楽器でしょ。
多くのものは39コース以上の弦、4オクターブ以上の音域を持つといいますね。
この琴は東方から伝わったというから、チェンバロの原型はドイツ辺りで誕生しても不思議ではありませんよね。
でも、中東辺りで生まれた手持ちの小さな竪琴から、ヨーロッパのハープとアジアの琴に分かれたのかも。
いわゆる竪琴は、リュラー、リラ、ライアーなどと発音されますね。
古典ギリシア語でλυρα、英語やフランス語でlyre、ドイツ語でLyraとか Leier、 イタリア語でlira。
ハープの起源は、狩人の弓とみられています。
最も古いハープの記録は、紀元前4000年のエジプトと紀元前3000年のメソポタミアといいますね。
確かに、琴やハープの音色に似ていますね。
古代の叙事詩やエジプトの壁画に現れ、世界中の多くの音楽文化で発展し独自の展開を遂げます。
聖書にもハープは登場し、ダビデ王が最も著名なミュージシャン。
実際にはその「ハープ」はkinnorと呼ばれる、十弦の一種のリラだったそうですね。
中東から、ハープと琴に分かれた可能性はありますねえ。
チェンバロの発明が何時頃誰によってされたにせよ、必要な技術はすでにその頃育っていたようですね。
ニューグローヴ世界音楽大事典によれば、現在知られているもっとも古いチェンバロへの言及は、パドヴァの法学生が残した1397年の記述に見えるといいます。
ヘルマン・ポールという人物が、「クラヴィチェンバルム」(clavicembalum)という楽器を発明したとあるそうです。
チェンバロの形を記録した現存する最も古いものは、北西ドイツのミンデンにあった1425年作の祭壇の彫像だそうですね。
鍵盤によって楽器を操作するという発想は、すでにオルガン(organ)において実現されていました。
9世紀に、修道院においてオルガン製作が始まるようになったのでしょ。
おそらくこの頃には、鍵盤楽器になっていたでしょうね。
ただ、当時はまだ礼拝など宗教活動には使用されず、音楽教育を目的とされていたとか。
徐々に広く製作が進められ、10世紀はじめになると修道士たちによってオルガンが礼拝に使用されるようになっていったのでしょ。
13世紀には、教会の楽器として確立されるまでに定着した。
パイプオルガンでは鍵盤は、パイプの音弁を制御する仕組みとして使われてますね。
中世にはプサルテリ(Psaltery)が、広範に用いられていました。
中世の宗教画にしばしば描かれている、天使が羽で弾いている三角形の楽器がこれですよね。
De Arythmetica, De Musicaの写本に描かれた、14世紀のプサルテリが残っていますね。
De Arythmetica, De Musica、それぞれ、美術、音楽って意味かな。
プサルテリは「弦をかき鳴らす」という意味で、12世紀から15世紀の間に使われていた楽器でしょ。
中近東を起源とし、ヨーロッパに伝わったと言われていますね。
音を出すのには、針金の弦を弓や指、羽でかき鳴らすというから、チェンバロの先祖と言う説もありますね。
プサルテリには、チェンバロとの共通点は多いですね。
プサルテリは金属弦が張られ、チューニングピンで張力が調節されており、ブリッジを通して響板に振動を伝え、聞える音量に拡大するという構造を持っていました。
チェンバロとの差は、鍵盤の操作によって弦を弾くという構造にあったようです。
オルガン辺りから、鍵盤の発想は来たのかしら。
発想はあっても、具体化するには技術が要ります。
ジャックが四角形のタングにはめ込まれたプレクトラムを支えるというのが、標準的なチェンバロの構造です。
チェンバロ族は、内部構造の基本はみな同じです。
大きさや外形は、極めて多様だけど。
奏者が鍵を押し下げると、もう一方の端が持ち上がる。
シーソーみたいね。
鍵盤の反対側の端に載っている、ジャックと呼ばれる薄板状の部品が瞬間的に跳ね上がる。
シーソーのリレーですねえ。
ジャックの側面に装着された鳥の羽軸などからできたプレクトラムつまりツメが、弦を下から上にひっかいて音を出す。
「鹿威し(ししおどし)」 か!
違うでしょうが!
奏者が鍵から手を放すと、もう一方の端も元の位置に戻り、ジャックも下がる。
プレクトラムは弦を回り込んで落ちるための機構「タング」の上に装着されているため、弦に強く触れない。
タングって、舌ってことかな。
弦を回り込んで落ちるための機構「タング」、器用ですねえ。
鍵が元の位置に戻ると共に、弦の振動はジャックの上に付けられたフェルト製のダンパーによって止められる。
木製なので、湿度に弱いため調律が安定しにくく、演奏者は演奏のみならず、自ら調律の技術も要求される。
チェンバロは外見はピアノに似ているが、発音の仕組みがピアノと異なるのですね。
プレクトラムつまりツメが弦を下から上にひっかいて音を出すため、音色などもピアノよりハープに近い。
だから、ハープシコードともよばれるのですね。
ツヴォレのアンリ・アルノーの記した楽器に関する1440年頃のラテン語写本には、ピアノのアクションの原始的な形態ともいえる構造も載っているそうです。
このラテン語写本には、ジャックのアクションの、3つのタイプの詳しい図が掲載されてるとか。
14世紀は、ぜんまい仕掛けやその他の機械技術が発展した時代です。
チェンバロの発明にも、充分な土壌が育っていたかもしれません。
ドイツやチェコといえば、技術で有名だけど。
その基礎って、この頃にあるのかな。
初期のチェンバロは、音域においても弦長においても小さかったようです。
初期チェンバロにおけるもう一つの発達は、大きさの増大であった。
その例の一つが、セバスチャン・ヴィルドゥングがバーゼルで1511年に出した『音楽概観』(Musica getutscht)の中にみられるそうです
ヴィルドゥングはこの本で、チェンバロの仲間の3つの楽器を紹介しているといいます。
「ヴァージナル」は38鍵、「クラヴィツィンバルム」は40鍵、「クラヴィツィテリウム」は38鍵の音域を、それぞれ持っています。
これはいずれも、後のチェンバロからみるとはるかに小さい。
一段鍵盤だけじゃなく、二段鍵盤、三段鍵盤もあったのでしょ。
移調、つまり曲全体の調を変えて演奏することを容易にする目的が、二段鍵盤、三段鍵盤にはあったようですね。
一本の弦に、二つも三つも鍵盤をつけるなんて、複雑な構造ですよね。
移調とは、例えばハ長調の曲すべての音を長2度上げることによってニ長調の曲として演奏することをいいます。
オッタヴィーノとは通常の音高よりもオクターヴ高くなるような小型の楽器で、弦長を短くすることで小さく作られています。
現代の製作家フランク・ハバードは、初期の小型はいずれも「オッタヴィーノ」の一種であったろうと述べているようですね。
オッタヴィーノはチェンバロ製作史の初期には一般的に見られる楽器であったようです。
面白いのは、クラヴィツィテリウム(clavicytherium)ですね。
クラヴィツィテリウムは響板と弦が垂直に、奏者の顔の前にくるように立てられた楽器です。
この省スペース原理は、後のアップライトピアノでも用いられてますね。
弦が地面と垂直に走るため、ジャックの動きは地面と水平になってます。
ジャックが四角形のタングにはめ込まれたプレクトラムを支えるというのが、標準的なチェンバロの構造でしょ。
クラヴィツィテリウムは、ジャックの側面に装着された鳥の羽軸などからできたプレクトラムつまりツメが、弦を横にひっかいて音を出す。
ええ。
クラヴィツィテリウムのアクションは、地面に垂直な鍵盤の動きを水平な動きに変換するという、より複雑なものとなっているのです。
チェンバロがあったから、今のピアノもある…。
でも、ハープがあったから、チェンバロも、ピアノもあったのでしょうね。
チェンバロの仲間には、まさにハープと鍵盤の合体したような形もあります。
すごいチェンバロですね。
アジアの琴も、関わってるかもしれないし。
実際、ツィンバロムの仲間にはピアノと似た音色を出すものがあるので、ピアノの先祖とみる声もあります。
ツィンバロムとチェンバロ、名前も似てますし。
でも、打弦楽器ツィンバロムをわざわざ、撥弦楽器チェンバロにするあたりが面白いですね。
中東で生まれた琴が、ヨーロッパで撥弦楽器、アジアで打弦楽器に展開したのは興味ありますね。
打弦楽器ツィンバロムをわざわざ、撥弦楽器チェンバロにしたのも、琴は爪弾く物という文化に弦の堅いツィンバロムを強引にあわせようとしたからかも。
そうみると、琴を撥弦楽器として演奏し続けた日本は、アジアよりもヨーロッパに近いといえますね。
追記
よくチェンバロとチェンバロン(ツィンバロンcimbalon)とを、間違えていることがあります。
チェンバロンはジプシーやチロルの人たちが今でもよく演奏している民族楽器で、左右に交差している弦を茶杓のような物で叩いて音を出す楽器であるが、実はそのチェンバロンがチェンバロの語源になっていると言ったら驚かれる方も多いでしょうね。
チェンバロンのドイツ語名はハックブレット(Hackbrett)で、これは似ても似つかない。
ギリシャ語やフランス語では(Tympanon チンバロン)そしてお国芸のハンガリーでは(Cymbalon)大分近づいて来たようだが、何とイタリア語では、読みはそのものずばりで(Cembalo)となります。
いづれにしても、語源は皆同じで、『打って鳴らす楽器』という意味なのです。
では今日私達が呼んでいるチェンバロはどうなのでしょうね。
本当はチェンバロの正式な名称は『クラビ・チェンバロ』と呼び、『クラビ』とは鍵盤のことで、『鍵盤付きのチェンバロン』ということになるのです。
追記
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