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シンデレラと火車?

『シンデレラ』 は、「灰かぶり姫(はいかぶりひめ)」とか、「灰かぶり(はいかぶり)」という意味です。

『シンデレラ』 の話は、グリム兄弟(Brüder Grimm) によってグリム童話に「No.21 Aschenputtel」として納められたものや、シャルル・ペロー(Charles Perrault) によるものが知られています。

 実際には、各国でさまざまに伝わっているのですか。

中国にも楊貴妃がモデルと言われる「掃灰娘」という類話があるなど、古くから広い地域に伝わる民間伝承だそうです。

ドイツ語のAschenputtelのほか、英語でCinderella、フランス語でCendrillon、イタリア語でCenerentola、などの名前で呼ばれています。

英語のcinder、フランス語のcendre、ドイツ語のAsche、イタリア語のcenere などはいずれも「燃え殻」「灰」を意味します。

細部は異なるものの、大筋としては以下のとおりです。

シンデレラは、継母とその連れ子である姉たちに日々いじめられていた。

あるとき、城で舞踏会が開かれ、姉たちは着飾って出ていくが、シンデレラにはドレスがなかった。

舞踏会に行きたがるシンデレラを、不可思議な力が助け、準備を整えるが、12時には魔法が解けるので帰ってくるようにと警告される。

その不思議な力は、話によって異なる。
魔法使い、仙女、ネズミ、母親の形見の木、白鳩などが登場する。

シンデレラは、城で王子に見初められる。

12時の鐘の音に焦ったシンデレラは、階段に靴を落としてしまう。

王子は、靴を手がかりにシンデレラを捜す。

姉2人も含め、シンデレラの落とした靴は、シンデレラ以外の誰にも合わなかった。

シンデレラは王子に見出され、妃として迎えられる。

ここで注目したいのは、なぜに主人公はさまざまな国で「灰かぶり」と呼ばれるかです。

 通称であって、本名ではないはずと。

でも、本名が別にあったとしても伝わっていないのでは「灰かぶり」と呼ぶしかないでしょ。

ここには、ジャック・オ・ランタン(Jack-o'-Lantern)が有名な、ウィル・オ・ザ・ウィスプ(Will o' the wisp)と呼ばれる話が、かかわっていると見ます。

 え。
  
 ジャック・オ・ランタンやウィル・オ・ザ・ウィスプは、鬼火とされるのでは。

 ジャックもウィルも、罪深いとされるでしょ。

実は、ペローやグリムよりも以前の17世紀の南イタリアで書かれた『Cenerentola(灰かぶり猫)』という作品があるのですよ。

五日物語という意味のPentamerone(ペンタメローネあるいはペンタメロン)という、ナポリ方言で書かれた民話集に収められています。

17世紀初めにナポリ王国の軍人・詩人であったGiambattista Basile(ジャンバティスタ・バジーレ)が、Gian Alessio Abbattutis(ジャン・アレッシオ・アッパトゥーティス)という筆名を用いて執筆した作品です。

この民話集は、死後の1634年から36年に刊行されました。

1日目第6話として収録されたこの話は、ペローやグリムよりも古い形と考えられ、両者と異なる部分があるそうです。

なおシンデレラはゼゾッラの名で登場します。

主人公のゼゾッラと裁縫の先生は共謀して、ゼゾッラと不仲であった最初の継母を殺害する。

主人公は、裁縫の先生と父の大公を再婚させる。

継母となった裁縫の先生は、6人の実娘を迎えるとゼゾッラを裏切って冷遇する。

その後、父の大公が旅行中に継母の娘には豪華なお土産の約束をするが、ゼゾッラはただ妖精の鳩がくれる物が欲しいとだけ答える。

その後、大公が妖精から授かったナツメの木の苗を土産として与えられたゼゾッラはその木を大切に育てる。

ナツメの木は実は魔法の木で、彼女は木の魔法によってきれいに着飾ってお祭りに参加して国王に注目される。

国王の従者に追いかけられたゼゾッラは、履いていたピァネッレを落としてしまう。

ピァネッレとは、17世紀のイタリアで履かれていた木靴のこと。

斎日に国王が国中すべての娘を召し出して靴を履かせた結果、ゼゾッラだけが靴に合致して王妃に迎えられる。

継母の6人の娘たちがそのときの屈辱を母親に伝えたところで、物語の幕を閉じる。

バジーレの作品の最大の特徴は、最初にゼゾッラが最初の継母を衣装箱に挟んで首を折って殺害する場面があることです。

このシーンは、グリム童話の1つである「ねずの木」と共通する側面を有していると指摘されます。
 
 主人公の灰かぶりは、罪を犯す場面がありますね。

でしょ。

さらに、猫とあるけど猫はどこにも出ないのですよ。

 寒がりな猫は、火を落とした後の竈で暖を取って灰かぶりになる。

 その竈から出てきた猫のように、灰かぶりだから「灰かぶり猫」。

それだけではないと思いますよ。

罪人を地獄に送る火車(かしゃ)も、被っているのかも知れません。
 
魔法使いとか仙女は、しばしば老女の姿とされますよね。

 となると火車婆、ですか。
 
だから猫がでるのでは。

火車の正体は、猫又とされますよ。

 猫又の尻尾は、裁きの悪魔と救いの神を、それぞれ表す。

生命の樹と、そっくりですよ。
生命の樹は救いの神に、死の樹は裁きの悪魔に、それぞれ対応すると見ても良いでしょうね。

 母親の形見の木も、イエスが生命の樹だとする解釈があることを思えば、母マリアとイエスに、重なってしまう。

そうですねえ。
 
 だから、魔法の木であるナツメの木が出る。

ナツメの木、つまりナツメヤシは、メソポタミアや古代エジプトでは紀元前6000年代にはすでに栽培が行われていたと考えられています。
またアラビア東部では、紀元前4000年代に栽培されていたことを示す考古学的証拠が存在するそうですよ。
紀元前4500年代から紀元前400年代のウルの遺跡で、ナツメヤシの種が出土しているといいます。

アッシリアの王宮建築の石材に刻まれたレリーフに、ナツメヤシの人工授粉と考えられる場面が刻まれていることはよく知られています。

ナツメヤシはギルガメシュ叙事詩やクルアーンに頻繁に登場し、聖書の「生命の樹」のモデルはナツメヤシであるといわれるのです。

 救いの神がイエスとしたら、妖精の鳩は聖霊となりますよ。

 主人公にはイエスに救われる罪を犯した女、マグダラのマリアまで重なるではないですか。

さらに、イエス自身も罪人とされて十字架にかかるでしょ。

 そして猫は、イエスの隠喩…。

ジャック・オ・ランタンを意識したから、フランスの文学者シャルル・ペローはガラスの靴を履かせるだけではなく、カボチャの馬車に乗せるというモチーフを付け加えたのかも。

ちなみに、シャルル・ペローが"Cendrillon ou La Petite pantoufle de verre(サンドリヨンあるいはガラスの小さな靴)"と、ガラスの靴としているのは説話を正確に記録したからだそうです。
フランスの昔話研究家であるポール・ドラリュの研究によると、「サンドリヨンは本来、毛皮の靴を履いていた」とする説は、間違えなのですって。

グリム童話は、ペローの影響を強く受けているといわれます。
でも、この物語に関してはペローのものよりも原話により近いのではないかといわれています。

ペローとの違いは、これらの箇所です。

魔法使いが登場しない 。
当然カボチャの馬車も登場せず、代わりに白鳩が主人公を助ける。

美しいドレスと靴を持ってくるのは、母親の墓のそばに生えたハシバミの木にくる白い小鳥。

ガラスの靴ではなく、1晩目は銀、2晩目は金の靴である。

シンデレラが靴を階段に残したのは偶然脱げたのではなく、王子があらかじめピッチを塗って靴が絡め取られたから。

ピッチとは、コールタールのことで古代から使用されていました。

王子が靴を手がかりにシンデレラを捜す際、連れ子の姉たちは靴に合わせるためにナイフで長女が爪先、次女は踵を切り落とす。

しかしストッキングに血が滲んで見抜かれる。

物語の終わり、シンデレラの結婚式で姉2人はへつらって両脇に座るが、シンデレラの両肩に止まった白鳩に復讐としてチェストつまり目潰しされたところで物語が終わる。

などが挙げられます。

初版から7つのヴァージョンを経る間に、これらの要素は表れたり削られたりと一定ではないそうですよ。

 じゃあ、私たちが知っているのはペローのですか。

ええ。
日本では、ペロー版が有名です。

 グリム童話では、1晩目は銀、2晩目は金の靴でしょ。  

そうですね。

 そうなると、長女と次女が白鳩に目潰しされるのは三晩目。

 生命の樹に対応させると、銀と金は御子と御父。

 白鳩は、聖霊…。

 見事に対応しますねえ。

シンデレラを考えたら、ジャック・オ・ランタン(Jack-o'-Lantern)やウィル・オ・ザ・ウィスプ(Will o' the wisp)、火車、さらには生命の樹や聖書にまでいっちゃいました。

面白いことに、日本版シンデレラともいえる作者不明の『落窪物語(おちくぼものがたり)』があります。

美しい容貌を持つ主人公の落窪姫君が、その名の通り寝殿の隅にある、畳の落ち窪んだ陋屋(ろうおく)に住まわされ、継母からのいじめにあうという話です。

 陋屋は、狭くてむさくるしい粗末な家でしょ。

 確かに冷遇ですねえ。

 シンデレラとも似通った構図を持つ、継子いじめ物語ですか。

題名の「落窪」は、主人公の薄倖な姫君が置かれた部屋の名前に由来します。

『落窪物語』全4巻は、10世紀末頃に成立したとされる中古日本の物語です。

物語は、漢籍の引用があり、露骨な表現や下卑た笑いもみられます。
作者は当時の男性下級貴族であろうと推測されているが、はっきりしたことはわかっていないです。

候補には源順、源相方などが挙がっており、巻四は清少納言が書き加えたとする説まであるが、いずれも確定に至っていないです。

 源順は従五位、源相方は正四位、従五位下以上の位階を持つ者が貴族とされていたから、地位はあってますねえ。

『落窪物語』は『源氏物語』に先立つ中古の物語で、『枕草子』にも言及があります。

恩讐のけじめをはっきりさせている、やや単純な筋書きではあります。
継子いじめの筋を軸に、当時の貴族社会を写実的に描写した物語として評価されています。

主人公は、中納言源忠頼の娘である落窪姫君です。
針子として家族の着物を縫わされ続けていたためか、裁縫が非常に得意です。
皇女である母と死別した落窪姫君は、継母のもとで暮らすことになりました。

出自は継母や義姉妹たちより遥かに高いが継母からは冷遇を受けて落窪の間に住まわされ、不幸な境遇にありました。

 下女同然に冷遇されている点は、シンデレラと酷似していますね。

しかし、そこに現われた貴公子、右近の少将道頼に見出されて、姫君に懸想した道頼は彼女のもとに通うようになりました。

姫君は、継母に幽閉されます。

 事実上の外出制限をされる点も、シンデレラと共通ですね。

そこを道頼に救出され、二人は結ばれます。

 救出者が現れる点も、シンデレラにも見られますね。

道頼は姫君をいじめた継母に復讐を果たし、一家は道頼の庇護を得て幸福な生活を送るようになります。

 冷遇したものは復讐され、主人公が幸せをつかむ展開もシンデレラと似ていますね。

日本とヨーロッパ、ここでも似ていますね。

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