無重力で作る単結晶は地上で可能になる。重力と電磁力?その6
これまで何度も、磁気で重力が弱くなるというのが最新科学の成果だと、お話してきました。
ガス天体と思ってきた星の重力は、磁気の大きさから言って実はもっと大きいはずだということですね。
磁石で浮くカエルを、テレビで見たことあるでしょ。
あれ、マジックでもなんでもなく、科学的事実です。
それでもまだ、磁気で天体の重力が小さくなる可能性があるという最新研究から導かれる議論を、天文学の人たちは受け入れないつもりでしょうか。
自分たちの方が間違っていたと認めるのも、そう遠くないと思いますよ。
天文学的発見も、従来の説では説明不能なものが多いですからね。
次にあげる記事は、2001年3月以前にはすでに書かれています。
産業技術総合研究所
http://www.aist.go.jp/index_ja.html
磁気力を利用した重力制御法
基 礎 部 構造化学グループ
若山 信子
はじめに
スペ-スシャトルの中は地球上のような重力が存在しない,いわゆる無重力の世界です。
そのため,地上で発生する対流も,浮力も,そして沈降もない世界です。
このような地上と全く異なる条件を利用して,欠陥のない単結晶の作成や機能性物質の合成など様々な実験が行われてきました。
しかしスペ-スシャトルの利用は,物資を運ぶのに同じ重さの金の値の約十倍のコストがかかるといわれる位,非常に高価なものです。
また実験のチャンスも極めて少なく,そのためにも微小重力効果の有無を地上で前もってチェックできることが望まれてきました。
さらに一歩進んで,“地上で微小重力や低重力環境を手軽に,安価に実現できたら”というのが多くの科学者の夢でした。
磁気力を利用した重力制御1)
鉄ばかりではなく,強弱はありますが,すべての物質は磁石に吸い付けられたり,反発したりします。
おもちゃの磁石では鉄くらいしか引き付けられませんが,最近開発された強力な磁石を利用すると,磁気力で水やカエルを空中に浮遊させることも可能です2)。
スペ-スシャトル中では重力(FG)と遠心力(FC)が釣り合い,F=FG-FC=0となり,微小重力環境が実現します。
そこで“遠心力の代わりに磁気力を利用できないか”と考えました。
重力レベルを無重力から通常重力まで連続的に制御できる新しい方法についてご紹介しましょう。
遠心力も重力も密度に比例しますが,磁気力も特定の条件下では密度に比例します。
一般に単位体積の物質に作用する磁気力は,密度ρ,質量磁化率χg,磁場強度H,勾配(dH/dy)の積で表されます。
FH=ρχgH(dH/dy) 式(1)
図1(a)は重力制御法の説明図です。
容器中の液体,例えば水に上向きの磁気力FHが作用する場合,水に働く力は重力FGと磁気力FHの差になります。
F=FG―FH=ρg〔1-χgH(dH/dy)〕=ρpg 式(2)
pは重力レベルで,地上では1,月面は0.2,スペースシャトル中は0になります。
水に作用する磁気力を変化させれば,みかけ上の重力レベルを宇宙環境から地上環境まで,自由に制御することが可能になります。
さらに磁気力を下向きにすれば,重力レベルを地上より大きくすることも出来ます。
さて図1(a)ではH(dH/dy)が一様なため,容器中の水に働く磁気力は均一になり,重力を制御できるのです。
水やカエルが空中に浮ぶ磁気浮遊は,磁気力の和が重力と釣り合った時に実現します。
磁気浮遊は一見,微小重力環境が実現されたかのように見えますが,しかし図1(b)のように水内部の磁気力が不均一な場合でも起こりますので,微小重力環境が実現していないことは明らかです。
このように重力を制御するためには,図1(a)のようなH(dH/dy)が均一な勾配磁場が必要になります。
低重力環境の気泡の挙動
重力レベルが変化したことを調べるため,図2(a)のようにチュ-ブから窒素ガスを上向きに流して発生する気泡の挙動を観察しました。
気泡の離脱現象は重力レベルpにより大きな影響を受けます。
FB=ρVpg>FA 式(3)
FBは浮力,FAはチュ-ブへの付着力,Vは離脱する気泡の体積です。式から重力レベルpが減少すると,気泡の体積は増加し,1分間に発生する気泡数が減少することが分ります。
勾配磁場の発生は超電導マグネットを,溶液は実験の便宜上,常磁性の塩化コバルト7%水溶液を,使用しました。
通常重力場では毎分約56個の気泡が離脱しましたが,上向きの磁気力を大きくすると,気泡のサイズは大きくなり,反対に気泡数は減少しました。
H(dH/dy)が160 T2/mを越えたあたりで(重力レベル~0.05 G),1分間に発生する気泡数は3個にまで減少し,気泡は球形に近くなりました(図2(b)Ⅰ,Ⅱ)。
このような気泡の形状は微小重力環境で観察されるものに似ています。
比較のために図2(b)Ⅲに北海道の地下無重力センターで観察した微小重力下でノズルに付着して成長する気泡,Ⅳに通常重力下でノズルから離脱する瞬間の縦長の気泡を示しました。
また図2(b)Ⅰのように壁面近くで液面が異常に高くなる現象も表面張力の効果が顕著になる微小重力環境に特有なものです。
水のような反磁性の液体でも重力レベルを0.7 Gまで変化させる実験を実施し,同じく気泡数の減少を観察しました。
このように,磁気力でみかけ上の重力レベルを微小重力近くまで制御できることが明らかになりました。
タンパク質の結晶成長3)
微小重力環境では,複雑な構造の巨大分子のタンパク質がゆっくり溶液中で結晶成長し,欠陥のない単結晶が作られることが多く,X線構造解析のための単結晶をスペ-スシャトルで作成する会社まで存在する程です。
タンパク質など生体物質の分子構造に関する詳細な情報は,新薬の開発や生化学の発展に非常に重要です。
磁気力で実現した低重力環境,0.95G,過重力環境1.05Gで,卵白タンパク質のリゾチ-ム結晶を4%過飽和水溶液から析出させました。
1日後に析出した結晶数を通常重力場1 Gと比較すると,0.95 Gでは減少し,1.05 Gでは増加する傾向が観察されました。
これらの結果から,仮想的な重力レベルの増減が溶液内のタンパク質結晶成長の初期過程に影響を及ぼしたと考えられます。
タンパク質水溶液中で微少重力環境を実現するためには,空間的に一様な勾配磁場(約1400 T2/m)が必要です。
今後,重力レベルを大きく変化させるマグネットを製作し,0G近くまでの低重力環境を実現し,重力レベルがタンパク質の結晶成長に及ぼす影響について研究を行う予定です。
ご紹介した重力制御法は,微小重力や低重力環境を地上で手軽に実現するものとして,タンパク質単結晶の作成のみならず,今後,材料合成や各種単結晶作成など多方面での応用が期待されます。
本研究は科学技術庁戦略基礎研究「磁気力を利用した仮想的可変重力場におけるタンパクの質結晶成長」(平成9-13年)の研究成果の一部です(金属材料技術研究所,生命工学工業技術研究所と共同実施中)。
1)若山 信子,“重力制御装置”,特開平10-172725.
2)E.Beagnon & R.Tournier, Nature 349, 470 (1991).
1)N.I.Wakayama , M.Ataka & H.Abe, J.Cryst.Growth 178, 653 (1997).
図1.容器中の液体に作用する磁気力FHと重力FG
(a)H(dH/dy)が一様な勾配磁場
(b)H(dH/dy)が不均一な勾配磁場
図2.(a)気泡発生装置
(b)気泡の挙動
SUPERCONDUCTIVITY C
こちらは、ちょっと後の2002年です。
以前、部分的に紹介したものです。
東京大学大学院工学系研究科応用化学専攻
岸尾研究室気付 超電導情報研究会
OMMUNICATIONS, Vol.11, No.2, April. 2002
15. つくばマグネットラボの大型磁石開発状況
―木吉氏(物材機構)が講演
去る3月4日、平成13年度第3回の低温工学協会新磁気科学調査研究会が開催され、物質・材料研究機構強磁場ステーション(Tsukuba Magnet Laboratory、以下TMLと記す)の木吉司博士の講演が行われた。
同氏の所属するTMLは、世界でも有数の強磁場発生施設として知られ、1998年4月からは共同研究施設として、外部の研究者にも開放されている。
同施設は当初酸化物高温超伝導材料の物性評価と超伝導発現の解明を目的としたものであったが、同時に、新しい磁気効果の発見、解明のために、様々な要望に応じた各種マグネットを開発してきた。
本講演では、最近のTMLでのマグネット開発の成果として、1 GHz級NMRマグネット、均一磁気力場発生マグネット、磁場方向可変マグネットなどが紹介された。
まず、1 GHz級NMRマグネットの開発についての報告があった。
近年、化学・生物の分野でNMRは、その重用性を一層増してきており、特にポストゲノム研究では、タンパク質の構造解析の手段として、その高性能化が期待されている。
NMRの高感度、高分解能化には、NMRマグネットの高磁場化が必要不可欠である。
物質・材料研究機構では、1995年からマルチコアプロジェクトの一貫として、1 GHz級NMRマグネットの開発に取り組んでいる。
NMRマグネットは一般に、使用する外部磁場に比例する1H原子核の共鳴周波数を用いて表され、1GHzは23.5 Tもの強磁場に対応する。
またNMRマグネットとして課せられる条件としては、磁場の空間的均一度、時間的安定度および長時間にわたる定常的な磁場発生が挙げられる。
TMLで開発中のNMRマグネットは、金属系外層マグネットと酸化物系内層マグネットで構成される。
外層マグネットは、スズ濃度を15 wt.%まで増加した(Nb,Ti)3Sn線材を最内周部に、その外側の電磁力が強大な領域にはTaを組み込み機械的強度を増した(Nb,Ti)3Sn線材が使用されている。
さらに、その外側には3つのNbTiコイルと、2対の補正用スプリットコイルが配置されるという構成になっている。
外層マグネットの開発は既に終了しており、内層コイルとしてスズ濃度15 wt.%の(Nb,Ti)3Sn線材のコイルを使用することで、920 MHz(21.5 T)のNMRマグネットとしての動作を確認済みであるという。
今後は、Bi系酸化物線材内層コイルの磁場安定度における問題点が解決されれば、1 GHz級NMRマグネットの運転も期待できる。
次に均一磁気力場発生マグネットの紹介が成された。NMRマグネットの開発が進む一方で、タンパク質の立体構造解析の手段としてX線回折がある。
ただし、この場合はNMRと異なり、試料は溶液ではなく結晶が用いられる。
タンパク質の結晶は得ることが難しく、良質の結晶作製法の確立が構造解析の鍵となっている。
最近、宇宙空間等の微小重力環境において、タンパク質溶液の対流を抑制し良質の結晶を作製しようとする研究が行われている。
ここで、磁気力を利用することによっても同様に対流を抑制できるのではないかと提案されている。
この際、タンパク質の結晶成長のためには、重力を打ち消すような方向に磁気力を均一に作用させることが望ましいとされている。
このような背景のもとで、TMLでは均一な磁気力場BgradB(磁場と磁場勾配の積)を提供するマグネットを開発している。
このマグネットは、ボアの軸方向には約40 mmにわたり、強く均一な磁気力場が存在するが、径方向にはほぼ磁気力が働かないという、これまでに例のないマグネットである。
またタンパク質の結晶成長には1週間程度の時間を要するため、これは冷媒を必要としない伝導冷却型のマグネットとして開発されている。
現在は、より大きな磁気力場を発生する2号機がほぼ完成段階にあるという。
最後に磁場方向可変マグネットについての紹介がなされた。
試料に印加する磁場の方向を変化させたいとき、通常は試料の向きを変化させることが多いが、この方法は引っ張り試験のような応力と磁場や、重力と磁場など2つ以上のパラメータを考慮する場合は適用することはできない。
TMLでは試料およびマグネットを固定したままの状態で、磁場の方向のみを2次元的に、連続的に変化させることのできるマグネットを開発している。
これは、NbTiから成る2対のスプリットコイルを互いに垂直に、十字型に配置した構成となっている。
2対のスプリットコイルはそれぞれ別の電源で動いており、運転電流を変化させることで磁場の方向を回転させることができる。
また磁場は、各コイルのボア軸の交点において、最大1.1 T発生することができる。このマグネットは現在も開発が進行中であり、またユーザーを募集中とのことである。
以上見てきたように、本講演ではTMLで開発した様々な種類のマグネットの紹介がなされたが、これらはユーザー側からの要望に応じる形で開発されたものがほとんどである。
これまでのNMRマグネットの発展も、NMRスペクトロメータに対する市場の要求が非常に強いことに起因しているものであるとも考えられる。
したがって、今後はマグネットのユーザー側と製作側との連携をより一層密にすることで、マグネットの高性能化・新しいマグネットの開発などが進み、ひいては新規磁場効果の発見・解明に期待が持たれる内容であった。
追記
様々な磁気浮上の動画があります。
日本磁気科学界
磁気科学ギャラリー
http://www.magneto-science.jp/gallery.html
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