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やはり生命は階層的らしい。

生命現象は、やはり階層性があると感じられた話題を二つ並べます。

日経サイエンス2011年7月号
http://www.nikkei-science.com/page/magazine/1107/201107_094.html

しなやかなタンパク質
A. K. ダンカー(インディアナ大学)/ R. W. クリワッキ(セント・ジュード小児病院研究所)

 タンパク質は種類の異なるアミノ酸がいくつもつながってできた大きな分子で,その鎖が特定の形に折りたたまれている,と考えられてきた。

実際,タンパク質分子の形(立体構造)が崩れると,機能を果たさなくなる場合が多い。

ところが近年の研究で,数多くのタンパク質が完全な折りたたみ構造を作ることなく仕事をこなしていることが明らかになってきた。

むしろ,この融通無碍な“しなやかさ”が重要なようだ。

著者
A. Keith Dunker/Richard W. Kriwacki
ダンカーはインディアナ大学医学部の生物物理学教授で,同大学の生命科学情報センターの所長も務める。

30年間ウイルス研究に携わった後,1995年から天然変性タンパク質の研究に専念している。

クリワッキは,テネシー州メンフィスにあるセント・ジュード小児病院研究所の構造生物学者。

1996年,カリフォルニア州ラホーヤにあるスクリプス研究所で,完全な天然変性タンパク質の最初の例を報告した1人。

原題名
The Orderly Chaos of Proteins(SCIENTIFIC AMERICAN April 2011)

蛋白質は相手を認識しているかのように振る舞い、姿や対応を変える能力があるように見えます。

相手を認識しているかのように振る舞い、姿や対応を変える能力があるように見えるのは、粘菌も同じです。

しかし、どちらにも脳に当たる組織はありません。

物質の持つ反映と対応の能力が、生命の段階でいかに高度に組織化されているかわかります。

背景には、プラズマがあたかも生命のように行動する性質があるのかも知れません。

理化学研究所
北海道大学
平成12年9月26日

http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2000/000926/index.html

粘菌が迷路を最短ルートで解く能力があることを
世界で初めて発見

 理化学研究所(小林俊一理事長)は、アメーバ生物である真正粘菌変形体が迷路を最短ルートで解く能力があることを発見しました。

この発見は、当研究所のフロンティア研究システム(FRS)局所時空間機能研究チーム・中垣俊之フロンティア研究員と、北海道大学電子科学研究所の山田裕康講師(FRS制御系理論研究チーム・フロンティア研究員[非常勤])らによって行われました。

 粘菌変形体には脳や神経系はなく、原形質と呼ばれる物質の塊のみからできているため、高度な情報処理能力は無いと思われてきました。

ところが原形質の持つ物理化学的な性質(例えばリズムやパターン形成)が巧みに組み合うことによって、迷路を最短ルートで解くという高い情報処理能力を発揮していることが分かりました。

この成果は、生物の情報処理機能を物質レベルから解明する糸口を与え、かつ新しい機能性材料の設計原理につながることが期待されます。

 本研究成果は、英国の科学雑誌「Nature」9月28日号に掲載されます。

研究の背景と成果

 真性粘菌はありふれた原生生物です。

その変形体の外観は、管からなる複雑な網目状をしており、巨大なアメーバのように見えます。

変形体は神経系のような情報処理系を持たず、原形質という物質の固まりでありながらも、1個体のような統率された行動を示します。

そして光など様々な外界からの情報をキャッチし、姿を激しく変化させて行動します。

 高等生物は神経系で情報処理をして活動を行いますが、神経系を持たない単純な生物はどのようにして情報を処理しているのか未だ解明されておりません。

今回、中垣・山田両研究員は、簡単に手に入りかつ、複雑な構造がないため生理実験やモデル化に適している粘菌を使うことによって、神経系を持たない生物の情報処理能力を明らかにすることを試みました。

そして実際に見て分かりやすく検証できるように、粘菌変形体に簡単な迷路を解かせる実験を行った結果、粘菌が迷路の最短ルートを探し出せることを発見しました。

 その粘菌による迷路解法は、2つのステップからなります。

変形体が迷路の道筋全体に広がった後、餌を入口と出口に与えると、1)行き止まりの経路にある部分を衰退させ、入口と出口をつなぐ経路全てに管を残します。

2)最終的に、最短距離の管を選んで1本の太い管を残します。このように粘菌は、入口と出口という離れた二つの場所にある餌に群がると共に、最短ルートで管を形成する事によって、一つの個体を維持したまま効率よく餌が摂取することができます。

つまり、迷路という複雑な状況であっても、餌のある2つの場所をいかに結ぶかという問題に対して粘菌は最適な答えを探し出すことができたのです。

 粘菌による迷路解法の2つのステップ、その物理的機構は細胞内で自発的に起きるリズム現象と深く関わっています。

粘菌の細胞内には、収縮運動の繰り返しを引き起こすリズム体(化学反応でできた時計)が至るところに存在し、お互いに影響を与えながら細胞全体に収縮運動の波などの時間的・空間的パターンを作ります。

このパターン形成が管の形態形成とリンクすることによって、迷路解法の基となります。

これらは、反応拡散方程式とよばれる数理モデルを用いて理論的に説明することができます。

すなわち、細胞を構成する物質の物理的性質に基づいて、粘菌による迷路の解法が解明されました。

まとめと今後

 生物の行動とは、ある情報処理の過程を経て最終的に出力されたものです。

したがって、今回の粘菌による迷路探索の結果は、原始的である単細胞生物の持つ情報処理能力の高さが証明された非常に画期的な成果だと言えます。 

 迷路の最短ルート探索は、数学的には「組合せ最適化問題」と呼ばれる難問題のひとつであり、電線の敷設最短経路やセールスマンの得意先訪問の順序決定など、日常生活に深く関わることから長年産学等で研究が活発に行われてきました。

本研究成果から、生物体で行われている物質レベルの情報処理方法が、この難問題の解法に対して新たなヒントになることが期待されます。

また、今回の成果から導き出される原理は、時間的・空間的パターン形成に焦点を絞ることによって新しい機能を持った材料の設計指針を与える可能性を秘めています。

将来、粘菌変形体のように自ら形を変えながら動いて仕事をこなすような、魅力的な材料が現実のものになるかもしれません。
 
補足説明

粘菌

 変形菌とも呼びます。

下等菌類の一群に属し、湿った場所の古材または植物体上に腐生して栄養を摂取します。

その栄養体を変形体といい、細胞壁を持たない不定形粘液状の原形質塊でアメーバ-運動をします。

仮足を出し、頻繁に原形質流動を起こす点と、多くの原形質塊が得られる点とから、生理学・原形質学の格好の材料として用いられています。

 生活環上では、温度や湿度の条件が良いと変形体から子実体(胞子嚢)を生じ、多数の胞子が形成され、発芽した胞子(配偶体)がさらに癒合して変形体となります。

 ムラサキホコリ・カワホコリなど、約60属・約360種が知られています。

(問い合わせ先)    

理化学研究所 フロンティア研究システム
時空間機能材料研究グループ     
局所時空間機能研究チーム 
フロンティア研究員   中垣俊之
  TEL:048-462-1111(ext.6323)  FAX:048-462-4695
  E-mail: nakagaki@postman.riken.go.jp

(報道担当)

広報室   仁尾、嶋田 
  TEL:048-467-9272 FAX:048-462-4715
  E-mail:koho@postman.riken.go.jp 

真正粘菌の形態

<野生の粘菌>

<1%寒天ゲルで培養した粘菌変形体>
内部から周辺部に向かって枝分かれする筋状の菅構造がみとめられる。

<1本の管状に延びる粘菌変形体>

粘菌による迷路探索

a b c d

寒天ゲルの上を移動している粘菌を情報より撮影した。

黄色の物体が粘菌変形体、黒色で示されている部分は迷路の壁を示している。

(図a)(図b)
迷路いっぱいに広がった粘菌が行き止まりの経路にある部分を衰退させ、入り口と出口を結ぶ経路に管を残している。

(図c)(図d)
次に、接続経路の長い物を消去し、最終的に、最短ルートに一本の管を形成した。

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