パウリの排他律を疑ってみると?
原子構造の模型において、電子の収容場所にどんなふうに電子が入っているかを示すのが電子配置です。
電資配置のうち、原子核を取り巻く電子軌道の集まりを電子殻と言います。
電子殻は、さらに、小軌道に分けられます。
そして、面白いことに、小軌道に入れる電子の上限は必ず2の倍数なのです。
当然電子殻に入れる電子の上限も、2の倍数になります。
これは、電子のように物質の構造に関係する粒子の仲間は、同じ状態には2個までしか入れないと言う事情があるからです。
これを発見者の名をとって、パウリの排他律と言います。
電子のように物質の構造に関係する粒子の仲間を、素粒子研究に大きな功績を遺したフェルミの名にちなんでフェルミ粒子、または、フェルミオンと言います。
一方、光のようにエネルギーの伝達に関係する粒子の仲間を、素粒子研究に大きな功績を遺したボースの名にちなんでボース粒子、または、ボソンと言います。
パウリの排他律は、フェルミ粒子にだけ起こり、ボース粒子には見られません。
パウリの排他律の説明として、スピンという考えが使われます。
上向きのスピンと下向きのスピンで組みを作って、軌道に収まっていきます。
電子の軌道は、定常波で表せることが気づかれ、物質波と呼ばれるようになります。
物質波に気づいたド・ブロイは、光に波と粒子の二面性があるなら、電子にも波と粒子の二面性があるのではと提唱したのでしたね。
提唱者のド・ブロイの名から、物質波はド・ブロイ波とも呼ばれます。
ド・ブロイの気づいた物質波は、やがてシュレーディンガーの波動力学として量子力学を大きく支えることとなります。
波動力学に異を唱えたハイゼンベルクたちは行列力学を提唱したが、シュレーディンガーは同じ内容を別の式で言ってるに過ぎないと証明します。
そして、解く状況に応じて都合のいいほうを使いこなせばよいことになります。
多数のボース粒子が一つの量子状態を占めることで現れる物質の状態を、ボース=アインシュタイン凝縮、あるいは、ボース凝縮とも言います。
ボース=アインシュタイン凝縮は、外部ポテンシャルによって閉じ込められた弱く結合しているボース粒子の希薄気体が絶対零度近くの低温まで冷やされたときに生じる現象です。
絶対零度0K(ケルビン)は、摂氏でいえば-273.15°Cになります。
ようは、極端に冷えると起こる現象と思ってください。
このボース凝縮と似たことは、実は、フェルミ粒子でも起こるのです。
これを、フェルミ凝縮と言います。
フェルミ凝縮は、絶対零度近くの低温まで冷やされるボース凝縮より、さらに絶対零度近くまで温度を下げて初めて現れる現象です。
ボース凝縮やフェルミ凝縮と類似した現象として、超伝導や超流動があります。
超伝導は、絶対零度まで下げないでも起こる物質が見つかっているので、超低温下の現象と同じと言われても…。
見つかったのは超低温下だったし、原理が解明される中で、より高温で起きる可能性が追求されることになったわけです。
実際は見つかったと言うより、確認されたと言うべきでしょうけどね。
パウリの排他律があるのに、どうしてフェルミ凝縮が起こるかというと…。
皮肉なことに、パウリの排他律が、謎を解く鍵なのです。
同じ状態には2つまでしか入れないとは、裏を返せば2つまでは入れることになります。
同じ状態に、1つだけで割り込もうとしても断られるが、2つでなら割り込めると見て良いのかというと…。
ではなぜ、2つのフェルミ粒子が組になると、フェルミ凝縮が起きるかですよ。
上向きのスピンと下向きのスピンで組みを作ると、フェルミ凝縮が起きる条件が出来る。
電子には、光子と同じように、波と粒子の性質があります。
そして、電子には物質波があるのですよね。
この物質波の考えは、やがて陽子や中性子などすべての素粒子に適応されていくことになります。
物質波は、極めてミクロの現象とされるのですよね。
だが、フェルミ凝縮でも、物質波が関係しているとしたらどうでしょう。
スピンの上向きと下向きということは、周期性のある動きに対称性があるとみていることではないでしょうか。
スピンは便宜上の概念とされるが、もし、ほんとうにあるとしたらどうなります。
回転は波動として、記述できますね。
波動には位相があり、位相を180度ずらすと反転し、逆位相となります。
逆位相は重ねると、あたかも波動がないかのように振る舞いだすのです。
つまり、2つの波がありながら、波はゼロとして振る舞う。
ゼロは何倍しても、ゼロでしょ。
つまり、たくさんのフェルミ粒子が、あたかもそこにないかのように振る舞っている。
でも、実際にはあって動いているから、完全に隠れきれないので、それがフェルミ凝縮として観測されるのでしょうね。
フェルミ凝縮がボース凝縮より、さらに絶対零度に近い必要があるのは、フェルミ粒子同士が逆位相で重なり合うにはそれだけ動きが制約される必要がある。
そういうことでしょうね。
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コメント
私もパウリの排他律について同じことを考えています。素粒子は同じ量子状態に入るとき波の位相が(スピン×波長)ずつずれるというものです。また、位相のずれが(+1/2)波長の電子と(-1/2)波長の電子は互いに丁度、1波長ずれているので打ち消し合わず、同じ軌道を回れるので、位相のずれが第4の量子数だと言えます。さらに、Φ方向の波動関数の位相の中には角運動量があり、波が自分で自分を打ち消さないためには角運動量がとびとびになる必要があるという条件(磁気量子数)もここから導けるので、位相のずれが角運動量のおまけとして3次元空間に顔を出したものがスピン角運動量だと考えるのは自然だと思っています。
投稿: ポチパル | 2016年4月26日 (火) 11時32分
共感していただき、ありがとうございます。
おそらく、フロンティア軌道理論あるいはフロンティア電子理論が導き出されるのも、私たちが注目した事情が深くかかわっているのでしょうね。
投稿: cova | 2016年4月29日 (金) 19時09分