臭い物に蓋して良いか?
臭い物に蓋をする、と言う諺があります。
もともとは、悪い事や悪い物を隠してしまうこと、と言う意味とされています。
一般には、このように解釈されています。
失敗や醜聞・悪事などが外部に洩れないように、安易で、しかも一時凌ぎの手段を取ること。
だが、この用法は本来は例えとして用いられていたのではないでしょうか。
臭い物とは、具体的にはどのような物でしょう。
臭さとは、基本的には、腐敗物などの匂いに感じる、危険性のシグナルですね。
そこで、引火性の強いガスが無臭だった場合などは、わざと臭いと感じる物質を混ぜるでしょ。
つまり、臭い物に蓋をする行為は、本来は合理的な理由のある正しい行動だったわけですね。
だから、わざと目立つような塞ぎ方をしたはずですね。
もちろん、念入りに塞いで匂いが漏れないようにしたわけですね。
有害であったり、少なくとも、不快であったり、しますからね。
漏れたら都合が悪いから、蓋をして封じ込めることが、本来の意味だった。
この、漏れたら都合の悪いことのシグナルが、臭さだったわけですね。
臭さはやがて、さまざまな例えにも使われるようになるわけですね。
腐敗が、堕落した状態の例えとして用いられていくうちに同義語となり、臭さも疑惑の同義語の意味を持つことになるわけですね。
そこで、堕落した人が発覚を恐れて疑惑を隠蔽する行為の隠語としても、臭い物に蓋をする、と言う言葉が使われるようになる。
そしてまた、不快なことも都合悪いことであることから、出来れば見たくないということで、ここにも使われるようになるわけですね。
不安もまた、不快だから、臭い物にいつの間にか入れられて蓋をする対象になってしまった。
でも、それは本来やってはいけないことでしょ。
臭い物に蓋をすること自体は、不安を直視した結果行った行為なので、むしろ目立つようにして、近づかないようにし、蓋を外さないように徹底したはずなのです。
ところが、危ないから近づくなとやっているうちに、何故近づいてはいけないか忘れられ、都合の悪いことから遠ざける意味となっていった。
さらに、目を反らす、誤魔化す、意味に転訛していった。
臭いものに蓋をしたのは、それしか対処法がなかった時代にはやむを得ない処置だったが、知識も深まり、技術も進歩した現在、臭い物はその物自体を無害化するように考えるべきでしょうね。
無害化できる技術の、開発のできていない物、開発の目途が立たない物は、用いるべきではない。
臭い物は無害化するか、無害化の目途が立つまで使わないことを、新たな常識にすべきでしょうね。
臭い物から目をそむけなかった、本来の対処法に立ち返るべし。
そういうことでしょうね。
そしてまた、臭いものに蓋とは、危険なことをするなと言う戒めでもあったはずでしょ。
危機管理のために、絶対触れてはいけない場所を封印することであり、絶対してはいけない行為を封印することでもあった。
その意味では「君子危うきに近寄らず」と「臭いものに蓋」は類似した諺でもあったでしょうね。
悪い意味に転化してしまった以上、「臭いものに蓋をするな」と言い換える必要があるかも知れない。
本来の意味にこだわる人からは、誤用を指摘されるかもしれないけれど、意味が変わってしまった以上は、今の新しい用法に言い回しも変える方が好ましいかもしれないですね。
追記
日常生活では、臭いものに蓋は今でも有効と言う声があるかも知れないが、今日では臭いからと言うより、臭くなる前に、あるいは、臭くしないために、速やかに封印し処理や処分をすると言った方が良いかもしれません。
これは、もちろん、通常の廃棄物の話ですから、念のため。
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