またもビッグバン理論に危機?!
ナショナルジオグラフィックニュース2014年9月11日付に、面白い記事がありました。
Michael D. Lemonick
for National Geographic News
September 11, 2014
地球から約8万光年の距離にある星団でも、どうやら私たちの銀河と同様に、金属元素のリチウムの量が理論上の値よりも大幅に少ないらしいことが、9月10日に発表された最新の研究で明らかになった。
ビッグバン理論の見直し迫る新たな観測
このリチウム量の不足から考えられる可能性は、これまでの天体物理学研究ではビッグバンを十分に説明できていないか、恒星のはたらきを十分に説明できていないかのいずれかであると、論文の著者らは示している。ただし、今回の発見は、ビッグバンの概念そのものを覆すものではない。
「この(リチウム量の)問題に関する最も極端な説明は、ビッグバン理論が不完全であるということだ。そこまで極端にならずに、この問題を説明する方法は見つかっていない」と、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の理論物理学者ブライアン・フィールズ(Brian Fields)氏は言う。フィールズ氏は今回の観測には参加していない。
宇宙についての基本的な理論では、宇宙は誕生後の数分間、ちょうど原子炉のような働きをして、最も軽い3つの元素である水素、ヘリウム、リチウムを生成したとされている。これより重い、酸素や窒素や炭素やケイ素などの元素は、それ以降に、恒星の核の中か、強力な超新星爆発において作られたという。
最初期の核反応に関するこうした理解に基づいて、最も軽い3つの元素がどれだけ生成されたかが理論上予測された、とカリフォルニア大学サンタクルーズ校(UCSC)の物理学者ジョエル・プリマック(Joel Primack)氏は説明する。なお、プリマック氏も今回の観測には参加していない。全体的に見て、これらの予測は正確に当たっていた。「宇宙学の最大の成功の1つだ」とプリマック氏は言う。
だがそれも、リチウムには当てはまらない。「リチウムについては、この予測は私たちが実際に恒星で確認できた数値より、約3倍も多かった」とプリマック氏は言う。
◆別の銀河系ではどうなる?
リチウムの量が予測より少ないことは、フランソワ・スピート(Francois Spite)氏とモニク・スピート(Monique Spite)氏の計測によって、1982年に初めて明らかになった。この2人は夫婦でともに天文学者である。「その後も多くの人が計測し直して、やはり同じ結果を得ている」とプリマック氏は言う。
ただし、天の川銀河の外の恒星におけるリチウムの量は、これまで計測されてこなかった。初めてそれを行ったのが、ボローニャ大学のアレッシオ・ムッチャレッリ(Alessio Mucciarelli)氏らによる今回の研究である。「ほかの銀河系でもこの問題が同じであるなら、ローカルな問題ではなく全宇宙的な問題なのだと確認できるだろう」とムッチャレッリ氏は言う。
チームが観測対象に選んだのは、いて座矮小楕円銀河に属する球状星団M54(メシエ54)だ。「これらの星は非常に暗いので、正直なところ、うまく行くかどうかも定かでなかった」とムッチャレッリ氏は言う。
最終的には、チリにあるヨーロッパ南天天文台(ESO)の超大型望遠鏡VLTを用いた30時間の観測によって、天の川銀河の外にある恒星でも、やはりリチウム量は予測より少ないとの確証を得た。
◆謎は深まるばかり
リチウム量の不足の説明として考えられるものの1つは、恒星にはもともと現在より多くのリチウムが含まれていたが、核反応によって破壊されたという説だ。「そんなに突飛な考えではないが、詳細まで確認するのは難しい」とフィールズ氏は言う。
より可能性の高い説明として、フィールズ氏とプリマック氏がともに認めているのは、ビッグバン直後の最初の数分間に、これまでの研究では明らかになっていない何らかのエネルギー放出があって、リチウムの生成が抑制された、というものだ。もしそうだとすれば、リチウムははじめ、くずのような形で誕生し、それがやがて崩壊して暗黒物質(ダークマター)になった可能性がある。
プリマック氏は、もしそうであれば「このリチウムの問題から窺えることは、恒星に関する些細な事柄などではなく、ダークマターに関する根本的な事柄なのかもしれない」と言う。
ダークマターの性質は、宇宙学の分野で今なお謎とされている主要な問題の1つなので、プリマック氏の仮説の通りなら、これは本当に大きな話になってくる。
球状星団M54のリチウム量に関する今回の論文は、「Monthly Notices of the Royal Astronomical Society」誌のオンライン版に9月10日付けで掲載された。
Photograph by ESO
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