重たい電子なのか重たく見えているだけの電子なのかどちらでしょうか。
日本の研究と言うサイトに、興味深いプレスリリースが掲載されました。
膨大な内外の論文や資料の点検に追われるいるから仕方ないのかも知れませんが、次にあげる記事は、2001年3月以前にはすでに書かれています。
産業技術総合研究所
http://www.aist.go.jp/index_ja.html
磁気力を利用した重力制御法
http://www.aist.go.jp/NIMC/publication/news98/34-1.html
こちらは、ちょっと後の2002年です。
東京大学大学院工学系研究科応用化学専攻
岸尾研究室気付 超電導情報研究会http://semrl.t.u-tokyo.ac.jp/supercom/index.html
OMMUNICATIONS, Vol.11, No.2, April. 2002
http://semrl.t.u-tokyo.ac.jp/SUPERCOM/56/56_15.html
15. つくばマグネットラボの大型磁石開発状況
―木吉氏(物材機構)が講演
ちょっとジャンルが違う日本語文献と言うだけで、気が付かれていないとしたら勿体ない話です。
時間が立てば該当サイトから削除され、意識して論文検索をかけないと見つからないから見落とされてしまったのかも知れません。
これらの論文の言わんとしていることは、大きな磁場で重力の見かけ上の大きさを制御できるというのです。
当然ながら、無重力状態だろうがより大きな重力下の状態だろうが、作れる磁場の大きさの範囲内であれば自在に制御できるのです。
ここで言う大きな質量の電子も実は、見かけ上大きな質量が測定されたに過ぎない電子かも知れません。
今後の研究に注目したいと思います。
強磁場中で重い電子を発見、近藤絶縁体の磁場中電子状態を解明―理・伊賀文俊教授が純良単結晶試料作製で貢献
プレスリリース 掲載日:2018.06.21
東京大学 茨城大学
発表者
松田康弘(東京大学物性研究所附属国際超強磁場科学研究施設 准教授)
寺島拓(研究当時:東京大学大学院新領域創成科学研究科物質系専攻 博士課程学生/現:株式会社リネア)
小濱芳允(東京大学物性研究所附属国際超強磁場科学研究施設 准教授)
池田暁彦(東京大学物性研究所附属国際超強磁場科学研究施設 助教)
近藤晃弘(研究当時:東京大学物性研究所附属国際超強磁場科学研究施設 助教/ 現:三井金属鉱業株式会社)
金道浩一(東京大学物性研究所附属国際超強磁場科学研究施設 教授)
伊賀文俊(茨城大学理学部理学科物理学領域 教授)
発表のポイント:
近藤絶縁体YbB12(12ホウ化イッテルビウム)の磁場誘起金属状態の比熱測定から、50テスラ以上の強磁場で重い電子が現れることがわかった。
近藤効果の証拠である重い電子を強磁場中で発見し、近藤絶縁体における多体電子相関効果をはじめて明らかにした。
近藤絶縁体はトポロジカル的性質からも特異な物質群として注目されており、今回の発見は、古くかつ新しい研究課題である絶縁体と金属の物理に新しい展開を与える。
発表概要:
東京大学物性研究所の松田康弘准教授と小濱芳允准教授は、茨城大学理学部の伊賀文俊教授らと共同で、近藤絶縁体(注1)YbB12(12ホウ化イッテルビウム)の比熱測定を60テスラ(注2)までの強磁場下で行い、強磁場金属相の電子が通常電子の数十倍重いことを発見しました。これは、典型的な多体電子相関効果である近藤効果が強く効いていることの直接的証拠です。近藤絶縁体は1960年代から半世紀以上研究が継続されていますが、強い電子相関効果のために 絶縁体化のメカニズムの解明は十分ではありませんでした。
最近で はトポロジカル性や中性フェルミ粒子などの新概念が提案されたため再び多大な関心が寄せられていましたが、今回、この物質の有する隠れた金属状態が強い近藤効果(注3)を持つことを初めて立証しました。
今回の発見は、絶縁体と金属の違いは何かという古くかつ新しい固体物理学の問題(注4)における近藤効果の役割に新たな理解を与えるものです。近藤効果は典型的な多体電子相関効果であり、非従来型超伝導やメゾスコピック系の量子ゆらぎの理解にも重要です。本研究の成果はこれらを含む広範囲な物質系の理解にも大きく貢献します。
本成果はアメリカ物理学会の速報誌 Physical Review Letters に掲載予定です(6月22日オンライン版掲載)。
背景
固体中では、本来、極めて多数の電子による複雑な多体の相互作用を量子力学に基づいて考慮すべきですが、多くの半導体や金属において近似的に1体の問題に書き換えて理解できることがわかっています。今日のエレクトロニクスは、量子力学を礎とする固体中の電子状態の理解によって形成、発展してきましたが、その背景において1体近似の有効性が重要な役割を果たしてきました。しかしながら、この近似による予想と大きくかけ離れた性質を示す物も 存在し、これらの物質群は強相関電子系と呼ばれています。 強相関電子系の研究は、銅酸化物高温超伝導体の発見(1986年)を契機に爆発的に進展しました。特に、1体近似では金属と予想されるが実際には絶縁体となる物質群が、高い超伝導転移温度を示す物質と深く関係があったため、絶縁体−金属の境界での性質に興味が集中しました。
一方、近藤効果は典型的な多体電子相関効果であり、希土類金属間化合物における非従来型超伝導の発現において重要な役割を果たします。強い近藤効果を示す物質群の殆どは金属ですが、いくつかの限られた物質では絶縁体となり、近藤絶縁体と呼ばれています。その絶縁体化のメカニズムと近藤効果の関係の解明は極めて重要な問題ですが、これまで十分な理解は得られていませんでした。近藤絶縁体の電子状態については、最近、トポロジカル的性質や中性フェルミ粒子の存在の可能性など新しい概念での捉え方も提案されています。近藤絶縁体の電子状態の理解は現在の固体物理学において最も重要な研究課題の1つと言えます。
典型的近藤絶縁体の1つであるYbB12(12ホウ化イッテルビウム)は約50テスラの磁場中で金属化することは発見されていました(1988年)が、その金属状態の性質については殆ど明らかになっていませんでした。特に、磁場で金属化した状態が、近藤効果が失われた通常の金属であるか、または近藤効果が強く残った強相関金属であるかは、近藤絶縁体の絶縁体化のメカニズムと関連した基本的かつ重要な問題ですが未解明でした。
研究内容
今回の研究では、YbB12について60テスラまでの強磁場中でその電子状態を調べました。強磁場中で比熱を精密に測定することにより、強磁場金属相では比熱が急激に大きくなることを発見(図1 )し、そのことから強磁場金属相が近藤効果の強く効いた強相関金属であることを 初めて直接的に証明しました。比熱測定では金属中の電子の重さを測ることが可能であり、電子の重さは通常金属の数十倍であることが分かりました(図2)。
また今回明らかになった磁場による比熱の増大現象は、磁気的性質の変化との整合性が極めて高いことに特徴があります。YbB12は、金属化と同時に磁化の急激な増加が見られますが、比熱の増大率はその磁化の増大率と非常に良い一致を示しました。このことは、近藤共鳴機構によってフェルミエネルギー近傍での電子状態密度が急激に増大したためと理解でき、強磁場で現れた金属相が強相関金属であるとの説明と極めて良く整合します。これまでに、近藤絶縁体の強磁場中の金属相が強相関金属の性質を有するという報告は、別の近藤絶縁体Ce3Bi4Pt3において過去に1件だけ存在しますが、このような磁気的性質と熱的性質の整合性は報告されておらず、近藤共鳴現象の観点から近藤効果が実験的に確認されたのは今回が初めてのことです。
成果の意義、今後の展望
本発見は、絶縁体と金属の違いは何かという古くかつ新しい固体物理学の問題の理解に大きく貢献し、特に、その近藤効果の役割に新たな理解を与えるものです。
今後は、今回の研究よりも1桁程度強い磁場までの研究展開を行い、磁場による近藤効果の完全な抑制と、その際の強相関金属の性質の変化を明らかにしていく予定です。これにより、強い相関を磁場で制御する技術が確立されると期待できます。近藤効果は典型的な多体電子相関効果であり、非従来型超伝導やメゾスコピック系の量子ゆらぎの理解にも重要です。本研究の成果と今後期待される進展は、これらも 含む広範囲な物質系の理解とその応用に大きく貢献します。
発表雑誌:
雑誌名:
「Physical Review Letters」6月22日(米国東部時間)オンライン版掲載
論文タイトル:
Magnetic-field-induced Kondo metal realized in YbB12
著者:
Taku T. Terashima, Yasuhiro H. Matsuda*, Yoshimitsu Kohama, Akihiko Ikeda, Akihiro Kondo,Koichi Kindo, Fumitoshi Iga
用語解説:
(注1)近藤絶縁体
希土類元素を含む金属間化合物で、高温では金属であるがある温度よりも低温で絶縁体となる。SmB6やYbB12、Ce3Bi4Pt3などが典型物質であり、その種類は極めて限られている。伝導電子と希土類元素の4f電子の強い混成効果によって低温で近藤効果が顕著となる。磁気的には局在磁気モーメントが消失した非磁性状態が基底状態となる。
(注2)テスラ
磁場の強さを表す単位。1テスラは10000ガウス。(地磁気は約0.4ガウス。)100テスラの磁場を発生させると内部に約4万気圧の磁気圧力が生じ、コイル破壊を伴う場合が多い。60テスラ程度の磁場では数十ミリ秒の比較的長い時間でのパルス磁場発生が安定に行える。
(注3)近藤効果
希薄な磁性不純物を含む金属における電気抵抗の温度依存性が示す極小を説明する効果として1964年に近藤淳によって示された。その後の研究の発展によって、高濃度に磁気モーメントが存在する金属間化合物場合においても近藤効果は起こり、伝導電子と局在した電子(f電子など)の反強磁性結合を介した多体効果として理解されることが分かった。近藤効果の強さは近藤温度(TK)で示されることが多く、数ケルビンから数百ケルビン程度となる物質が多い。電子の重さはフェルミ温度をTFとして概ねTF/TKでスケールされ、通常金属の1000倍程度になる場合もある。
(注4)古くかつ新しい固体物理学の問題
古くからある未解決の問題であるが、新しい概念の導入と測定技術の進歩により、理解の深化と実測可能な物理量の拡張がなされ、新しい研究展開が行われている問題。
添付資料:
図1.磁場−温度平面における比熱/温度のカラープロット。強相関金属状態が強磁場で現れることがわかる。
図2.電子比熱係数γの磁場依存性。これより、磁場中金属相では、比熱係数が急激に増大しており、電子の重さが通常金属の数十倍大きいことが分かる。
追記
ここで紹介した磁場に関する論文はここにも納めましたので、興味のある方はそれぞれの組織に問い合わせてみてください。
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