ロシアとどう向き合うか ――国際法を語れない日本と、対話という唯一の出口
ロシアは周辺諸国から見ると、どうしても「膨張志向の厄介な国」に見える。
国境を力で動かし、歴史や民族を理由に介入し、現状変更をためらわない。
小国にとっては、これ以上警戒すべき相手はないだろう。
ロシアからはどう見えるのか
ただ、ここで一度立ち止まって考えてみたい。
ロシア自身の目には、世界はどう映っているのか。
ロシアの歴史を振り返ると、平原からの侵入という記憶が繰り返し刻まれている。
ナポレオン、ドイツ帝国、ナチス・ドイツ。
国境線は「線」ではなく、「幅」で守るものだという感覚が、国家の深層にある。
冷戦後、西側が理念として進めた東方拡大は、ロシアから見れば、安全保障空間が静かに削られていく過程に見えた。
正当化はできないが、なぜ力に訴える選択をしがちなのかは、ここから理解できる。
ヨーロッパはどうだろうか
ヨーロッパはこのロシアに対し、国連憲章や国際法を前面に出して対峙している。
これは間違いではない。
ただし、ヨーロッパがその言葉を使うためには、過去への反省という前提条件がある。
植民地主義、勢力圏支配、二度の世界大戦。その重荷を引き受けた上で、「もうその時代には戻らない」という自己規律を課して初めて、法の言語が成立する。
ヨーロッパは、そこを何とか越えてきた、とも言える。
中国や南北朝鮮は?
中国や南北朝鮮も、形は違えど似た構造を持つ。
歴史的被害意識や体制の問題を抱えながらも、自分たちはこういう立場で世界を見ている、という物語を一貫して語ることはできる。
賛同できるかどうかは別として、論理の土台は明確だ。
厄介な日本とアメリカ
一方で、もっと厄介なのが日本とアメリカである。
アメリカは国連憲章と国際法を掲げながら、例外を自らに許してきた国だ。
戦勝国としての特権、覇権国としての裁量。
この二つを同時に抱えたまま、アメリカは戦後秩序を運営してきた。
それを正面から認めれば秩序は揺らぎ、否定すれば自らの行動を説明できなくなる。
この矛盾を、力で覆ってきた。
日本は、そのアメリカが設計した戦後秩序に乗ることで、平和と繁栄を手に入れた国だ。
ここに、日本特有のジレンマがある。
サンフランシスコ講和条約第2条(c)で、日本は千島列島を放棄した。
この条項は、1875年に平和的に確定していた日ロ国境を、敗戦という結果を理由に曖昧な形で処理したものでもある。
国連憲章や国際法の理念から見れば、説明を要する部分が多い。
しかし日本は、この条項を正面から問題化できない。
なぜなら、サンフランシスコ体制そのものが、日米安保と一体になっているからだ。
ここに手を付ければ、安全保障の基盤そのものが揺らぐ。
結果として日本は、「国際法を守れ」と言いながら、自分の足元の条文については語りきれない立場に置かれた。
この構造のまま、ロシアと国境問題を真正面から解こうとすると、必ず話はこじれる。
法理を出せば日米関係に触れる。
安保を守ろうとすれば法理が曖昧になる。
まさにジレンマだ。
では出口はどこにあるのか。
カギを握るのが対話だ
それは、問題を解決しようとしないことにある。
少なくとも、力や正義で一気に片を付けようとしないことだ。
代わりに必要なのは、ASEANが長年やってきたような、「対話を続けるための枠組み」を広げることだと思う。
中国、ロシア、アメリカ、日本、そしてカナダなど周辺諸国も含めた、東アジア・環太平洋の対話の場。
そこにもちろん南北朝鮮も入れる。
台湾は国家としてではなく、オブザーバー、あるいは機能的な参加にとどめる。
主権問題を扱わない。
事故防止、海上交通、災害対応、経済と人命に関わる部分だけを扱う。
これは理想論ではない。
解けない問題を、爆発させないための技術だ。
対話により解決を日本が取るべき理由
日本がこの枠組みを主導すべき理由は明確だ。
日本は覇権国ではない。
裁く立場にもない。
だが、秩序を壊さず調整する経験と資質を持っている。
そして何より、自分が国際法を語りきれない立場にあることを、内心ではよく分かっている。
だからこそ、日本が選ぶべき道は、正しさを叫ぶことではなく、場を作り続けることだ。
成果を急がず、派手な結論を出さず、同じテーブルに座り続ける。
その粘り強さが、最悪の選択肢を遠ざける。
ロシアとどう向き合うか。
その答えは、ロシアを説得することではない。
日本自身の立ち位置を過信せず、対話という細い出口を、ブレずに守り続けることなのだと思う。
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